「道にゴミがたくさん落ちているだろう。日本とは違って」インタビューは、開口一番、このことばで始まりました。
場所はプノンペン市のCapital Hall。廃棄物担当 Nuon Samnavuth氏へのインタビューです。
「ポイ捨てをやめるように、いろんな工夫・努力をしているんだ。たとえばこれは、市場に配布したうちわだよ。ゴミの分別方法が書いてある。うちわなら、使ってもらえる率が高いからね。お土産にどうぞ」
「緑色が有機物、オレンジ色が無機物、という分け方だ。他にも、ポスターを貼ったり。スピーチしてまわったり。あれこれやっているけど、なかなかね」
「戦争があって、まずは僕たちは生きるのに精一杯だった。つい最近まで、ゴミなんかにかまってられない時代だったんだ。『ゴミのポイ捨て』というのは『習慣』になっているんだよ。習慣を変えるのは難しい。でも、今は違う。観光客も増えてきているし、汚い街にし続けるわけにはいかないんだ。この習慣を変えなければならない。」
何が重要課題か。聞くまでも無く、このポイ捨て問題のようです。
ところで、旅の途中に読んだ『三四郎』に、こんな一文がありました。
『この時三四郎はからになった弁当の折を力いっぱいに窓からほうり出した。』
冒頭、列車で東京に向かう場面です。夏目漱石が『三四郎』を著したのは1908年。少なくともこの時代には、日本でもポイ捨てが当たり前だったようです。いまでこそ「ゴミのポイ捨てはよくない。分別しなきゃ」という意識になり、「清潔だ」という評価を受けつつありますが、それは、Nuon氏のような志持つ人々の努力があったからこそでしょう。
ゴミ処分場の見学はおろか、こうしたインタビューにも、本来であれば知事の許可が必要というカンボジア。(今回は友人との会話、ということで非公式の扱いにしてくれました)写真も撮れなかったので、以前参加した国際会議で撮影したものを抜粋。一番右がNuon氏です。
なお、スカベンジャーたちが集めている缶や瓶、ペットボトルなどの有価物は、ベトナムに輸出されているそうです。
それらを除いたフォーマルな廃棄物回収は、CINTRIという民間企業が、有料で行っています。費用は、量に応じて月に1ドル〜20ドル。他にも回収を行う企業が5社ほどあったそうですが、みな潰れてしまったそうです。現在、プノンペン市から出るゴミの総量は、1日1,500トン。処分場の管理は政府の管轄です。
余談ですが、「カンボジアの人たちは陽気で、笑顔が良いね」とコメントしたときの、彼の回答です。
「たしかに、日本を訪れたときは、電車の中でみんな難しい顔をしていたね。何かしら読んでいたり。忙しそうにして。でも、それはたぶんビジネスに集中しているからなんだ。一方、カンボジアでは、そこまでビジネスを深く考えてはいない。暇そうにしているからこその陽気さ、なんじゃないかな」