2011年09月05日

ヘドロの再生。農地の新生。

復興支援活動をしていく中でお世話になった仙台の農業生産法人『舞台ファーム』さんのwebサイトにて、東日本大震災のコラムを10回に渡って書かせて戴きました。順次転載していきます。これは7月28日に書いた、第八回目の記事です。

9月1日の『河北新報』によれば、宮城県利府町でボンテラン工法の実証実験が始まったそうです。

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仙台東部道路をわたると、よどんだ潮のようなニオイが漂ってくる。ここは海から5Kmは離れている。磯の香りでは無い。ニオイの元は、津波があたり一面に残したヘドロだ。道路や家屋の中からは撤去されたが、農地には依然として残っている。

「東日本大震災に関する東北支部学術合同調査委員会」の試算によれば、津波堆積土砂の総量は2,200万立方メートル。仙台市だけでも260万立方メートル(東京ドーム約2個分)のヘドロが存在する。

7月1日から、農地に重機を入れ、災害廃棄物の撤去が行われている。しかし、すべてが重機で取り除けるわけでは無い。ビニルハウスや側溝など、重機が使えない部分・入っていけない場所もある。人の手で少しずつ、地道に、除去していく必要がある。

津波堆積物は、畑の土とそれほど混じり合っておらず、層状に固まっている。斜めにシャベルを入れ、取り除いていく。”掘る”のではなく、”剥がす”のがポイントだ。あまり深く掘りすぎてしまうと、もともとの土壌まで削ってしまう。

取り除いたあとのヘドロはどうするのか?

東北大学などが、「ボンテラン工法」を提案している。津波堆積物に古紙の繊維などを混ぜ合わせる事で、ヘドロに含まれる塩分や発生する悪臭をほぼ封じ込められる上、強度もアップするので、盛り土などに活用することが可能だという。同時に、海岸沿いの県道10号線を盛り土構造にし、防災機能を高める案が検討されている。この道路や防潮堤・防災緑地帯に、再資源化した津波堆積物を使えば、80万立方メートル分を活用できる。

また、岩沼市では海岸地域に「津波除け千年希望の丘」を作る計画を立てている。これは、高さ10〜20mの小高い丘を何重にも築き、丘の高さと樹木によって津波が来たときのエネルギーを減じて、住宅や工業団地などを守るというものだ。丘の増設に当たって、ガレキやヘドロの再利用が提案されている。

東日本大震災によって発生したのは、農地のヘドロだけではない。コンクリートや木質系ガレキをはじめ、膨大な災害廃棄物が発生した。しかし、その分、さまざまな活用のアイデアが議論されている。

今回の震災を奇貨とする動きは、リサイクルの分野に限らない。

『仙台市震災復興ビジョン』には以下のように描かれている。

“津波被害のあった宮城県・福島県の東部沿岸地域の多くは農業生産が盛んであり、本市東部地域も本市農業の重要な生産拠点となっています。本市は東北最大の消費地であるとともに、第一次産業に関する研究機関が集積するなど、農や食に関し、東北を牽引するポテンシャルを有しています。このことから、仙台東部地域を「農と食のフロンティア」と位置づけ、農水産物の生産や供給力の再生・強化を図るとともに、事業者、研究機関や民間企業との連携・協働により、新商品の創造や新エネルギーの活用など、生産・経営・環境などの技術革新等(イノベーション)を実現し、新しい第一次産業のありかたを具現化する地域として再生します。”


そう。ヘドロの在り方すら、検討されているのだ。農地の、土の在り方をゼロから考え、まったく新しい農業へと進化するチャンスではないか。

たとえば、”ゼロアレルギー・ファーム”。アレルギー反応や炎症の発現にはたらく化学物質、ヒスタミン。これを除去した野菜の生産を本格的に研究し、実用化に至れば、世界に通用する農作物となるだろう。中国が大きなマーケットとなる。

被害を受けた農地の区画を再整理し、管理面積を拡大化して生産の効率を上げようという動きがあるが、それだけでは、世界の農業市場に拮抗するとも思えない。日本の技術力をもって、革新的な商品を創造する事が必要だ。

今回の震災は世界から、大きな、大きな注目を浴びた。

次は、「あの状態からここまで」という驚きとともに、日本の農業の真価を見せつけようではないか。